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“諦める”と”明らめる”の違い

 ある日“あきらめる”という言葉には、二つの意味があるというお話を聞きました。
一つは”諦める”。もう一つは”明らめる”。
“諦める”は、物事を断念する・終わらせること。
“明らめる”は、全ての事を知ること・受け入れること。

 私は大学時代に一年間右手を麻痺した経験があります。
事故などによって神経が傷ついたわけではありません。
寝方が悪くて、手が痺れるの大げさなパターンのようでした。医者も当初は数日で感覚が戻って、動くようになるよと言ってくれました。
しかし、数日経っても、数週間経っても、2ヶ月経っても右手は動くどころか、一切の感覚は戻りませんでした。
医者も「どうして回復しないのかが分からない……」と、困惑するばかり。
ついに、大学病院の整形外科へ紹介状を書かれて、通院することに。

 目が覚めた時に右手が動かない、ただの肉の塊がぶら下がっている状態になっているんです。医者も何故動かないのか原因も分からないし、治るのか治らないのかも分からない。私は毎日右手を抱いて悲観していました。

 しかし、時間は平等に流れていきます。療養中であっても、日常生活は続けなくてはいけません。朝起きてシャワーに入って、着替えをして、ご飯を食べてetc…いつもしていた当たり前の生活をしなければいけません。
片手が使えなくなって初めて、両手が使えないことへの不便さを実感しました。
利き腕が右手だったこともあり、その不便さは多大です。
服を脱ぐこと、着ること、箸を持つこと、片手で食事をすること、靴の紐を結ぶこと、爪を切ること、パソコンのタイピングをすること、いつもできていたあらゆることが、困難になりました。でも、片手でこなさなくてはなりません。家族や知人に手伝ってもらったりしながら、なんとかこなしました。

 でも人間って面白いもので、適応してしまう生き物なんです。
3ヶ月経った頃には、一人で着替えをして、包丁とフライパンで料理をして、外出して買い物をして、パソコンも左手でブラインドタッチをして、ピアノまで弾いていました。
ただ違うのは、両手で行うよりもスピードが遅いというくらいです。
その頃になったら、左手が使えない事への不便さ・悲観の思いは、ほとんどなくなっていて、むしろ
「動かないものはしょうがないじゃん。片手だけで普通に生活できてるんだからそれでいいじゃないか」と思うようになっていました。

 私は右手を麻痺してからの3ヶ月間は、その状況を受け入れることができず、悲観ばかりしていました。しかし、その状況を「明らめる」つまり、受け入れることにより、心が晴れたような気持ちになりました。
明らめた途端、驚くべき出来事が起こりました。
今までどんな検査をしても一切反応しなかった右手の神経が反応を示したのです。
当初は治療打ち切りの話しまででて、障害者認定の手続きにも入ろうかという話しになっていたのですが、驚いた大学病院の医者は治療の続行を勧めてくれました。
それからは、本当にゆっくりですが、右手の神経が徐々に回復していき、一年後には日常生活には支障がない程度まで回復、今ではほぼ完璧に動くようになりました。

 私が言いたいのは、「明らめる」自分を受け入れることによって、神経が回復する可能性があるということではなくて、心の持ち方が変るということ。そして、心の持ち方が変るということが最も大切ということです。
明らめてからの私は、片手でも誰よりも笑っていましたし、むしろ生き生きしていました。
麻痺が回復したのは運が良かっただけかもしれません。

 自分自身の今の状況・状態・環境、それらを自らが否定しないでください。
逆に受け入れてみてください。
何故苦しいか? それはあなた自身が自らを否定しているからなんです。
少し落ち着いて、深呼吸をして、「これでいいじゃないか。だったら、今できることでベストを尽くせばそれでいいじゃないか」と、自分の心に言ってみてください。
その瞬間、今まで苦しんでいた心がスッと楽になって、新しい視野で物事が見えてきます。
そして新しく見えてきた世界というのは、今まで体験したことないくらい、輝いているものなんです。

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